昭和十四年の「チボー家の人々」。
実家で見たもの、もうひとつ。
ロジェ・マルタン・デュ・ガールの「チボー家の人々」。
おかんが少女時代の昭和十四年版の発行。

昭和十四年と言うと、ノモンハン事件が起こって、
日中戦争が激しくなってくる時期ではあるが、
日米戦争はまだ始まってないし、
日本国内では、それほど戦争の色が、
濃い時期ではないと思っていた。
だけど、この本の「第九章」は。

一文字もない。
よく見かける、黒く塗りつぶされたものではなく、
印刷の前段階から、削除されている。
次のページは、第十章から始まる。

結果、その本は、81ページの裏が108ページという、
不可解な構成になっている。
108ページを82ページとしなかったのは、
「いつか、この失われたページを復活させる」という
出版社の意地や希望の証なのだろうか。
この本には、他にも削除された箇所があったが、
一章すべて削除されてるのは、この九章だけだった。
ちなみに本には、解説などを綴った冊子が付いていて、
その中に、第九章のあらすじが載っていた。

この文章を読んでも、何が検閲に引っかかったのか、よくわからない。
ただ、ノーベル文学賞に輝き、小津安二郎も「麦秋」で取り上げた、
世界的名作が、これほどズタズタにされたのだ、
という歴史を、この本は教えてくれる。
戦争の足跡は、こんなところにもある。
再び、こんなことにならないよう、
この事実を噛み締めなければならない、と思う。

