老いと向き合う一人の男のドキュメンタリー。BBBムービー「うしろから撮るな 俳優織本順吉の人生」。
公式サイト
2019年に亡くなられた名脇役、織本順吉さんの晩年を娘さんが撮ったドキュメンタリー。

最初は、手持ちカメラの映像が、すごく揺れてて、
乗り物酔いに極端に弱いワシは、
「この映像に一時間半付き合わんとあかんのか」とげんなりしてたのだが、
いつの間にか、そのことを忘れてた。
カメラが安定したのか、中身に惹き込まれたのか。
家族の前の顔と、外の人に見せる顔、
そして役者としての顔、が、それぞれ違ってる別の顔に思えた。
きっと、その三つで、ある意味、心のバランスが取れていたのだろう。
だけど「老い」は残酷だ。
役者として書くべからざる能力、
セリフを覚える力を、老いがはぎ取っていく。
そこで崩れたバランスが、家族に向かう。
家族に怒ることでしか甘えられない。
甘えることでしか家族への愛を表せない。
そんな昭和一桁生まれの男(ワシの親父と同い年)の、
不器用な生き方。
けど、ぶつけられる家族はたまったもんやないよなあ。
ワシも、加齢するとともに、
「なんでこんなことに腹が立つんやろう」と思う機会が増えてきた気がする。
歳をとると、怒りっぽくなる人は、少なからずいて、
それは、なんか男性に多い気がする。
気をつけよう。目指せ!好々爺!
人生初の降板、短いセリフも何度もNGを出すようになって、
いよいよ役者を続けるのが無理になる。
ショックやったろうなあ。
その時の娘の「もうお仕事来ないかもしれんやん」て言葉、
自分で認識することを促して、それから生きていくためには必要やったことかもしれんけど、
キツイわー。このときだけは、心の中で「やめたげて!」と叫んでました。
「死ぬ時も撮ってていい」は、役者としてすごいなあ。
だから、油断してるかもしれない、後ろからは撮られたくないのかもしれん、
と思った。
最後に「すごいなあ」と思ったのは、
この映画の素材動画を、じっと見つめる、ご本人。
あれは、ワシにはできんなあ。
「素の自分」であっても、客観的に見てみたい、という気持ち、
これも、役者ならではの、感情なのかもしれんな。
最後の奥さんの爆発が、本当に素晴らしかった。
ご本人きつかったかもしれんけど、
奥さんが、自分を一人の人間として、本音で接してくれて、
嬉しかった面もあるんではないか、と思った。
奥さん、神戸の人らしく、
娘さんも、諸般の事情で、お父さんと離れて、神戸で育ったらしく、
二人がお父さんのおらんとこで話す、関西弁の愚痴は、
この映画で一番、笑えてホッとするシーンだった。
晩年に向かう役者を撮り続けたドキュメンタリーとしても面白かったけど、
一人の男がどうやって老いと向き合うのか、
という役者を超えた人間を追いかけたドキュメンタリーとしても、
なかなかない映画ではないか、と思う。

