苔寺へ。

京都西山の西芳寺、通称苔寺に行ってきた。
小学生から中学生にかけて、父親に神社仏閣、古墳などに連れてってもらって、
大喜びする奇妙な歴史好き少年だった。
ところが苔寺は、ワシが中学生の頃、一般公開を止めて、
申込み制になったため、なかなか行く機会がなく、
ワシの「いつかは行きたい寺ランキング」万年一位だった寺なのだ。
年末、たまたまメールで案内のあった、
JR東海ツアーズの「世界遺産西芳寺「冬の参拝」と「竹」の寺地蔵院を訪ねる」
というツアーを見て、飛びついたのであった。
後で知ったのだが、これは初めての試みらしく、
総門を一般の人に開けるのは、四十二年ぶりらしい。
つまり、ワシが中学生のとき、一般公開を止めて以来なのだ。
この機会に気づいて、本当に良かった。

楽しみにし過ぎてたのか、集合場所に着いたのは、30分近く前。
もう係員の人は着いていて、受付は済ませたが、
中にはまだ入れないようなので、周りを散策。

京都西山の谷あい、静かな住宅地に苔寺はあった。
境内でなくても、苔がそこら中に生えている。
お寺の施設ではない、道路沿いの石垣も苔むしている。
苔の生育に絶好の場所なのだろう。

今日の見学者は、ワシと同じようにウキウキしてる人が多いのか、
予定時間より早く入れて頂いた。
門からの参道が素晴らしい。
京都で苔の美しい庭はいくつも観たが、これほど苔に包まれてるような
感覚になったことはない。
ときおり小雨の散らつく、この天気も、今日に限っては、追い風なのかもしれない。
湿った空気が、より苔との距離を縮めてくれる気がした。

石にまでむす苔。
日本らしい風景と、この湿潤な気候は、切っても切れない関係なのだな、
と改めて実感する。
誰に言われるまでもなく、日本は美しい国だ。
苔寺に来て良かった、という気持ちが心に満ちてくる。
堂内には、堂本印象さんの素晴らしい襖絵が並んでいたのだが、
そこは撮影禁止だった。
これも、今回初公開らしい。
普通の襖絵とは違い、抽象的な襖絵で、ものすごく新鮮だった。
古いものと新しいものとが一体になり、どこにもない空間を作り出していた。
苔だけでも、どこにもない空間だというのに、さらに新しい空間を作る。
しかも、それは、人集めのためや観光のためではなく、非公開。
こんな挑戦を、どんな目的でやってるのか、不思議に思ったが、
それが宗教的な情熱だとしたら、
「ちょっとワシには考えられない世界やな」と思った。
お堂から、外を撮るのは自由。
庭に一本散り染めの大きな白梅があった。
枝振りがなんか梅っぽくないし、こんなに大きな梅もあんまり観たことないので、
お寺の職員の方に聞いてみた。
やはり梅だった。

それをきっかけにいろんな話をお聞きできた。
元々は聖徳太子の別荘があったと言われる場所で、
それが法相宗んぽ寺になり、浄土宗を経て、臨済宗になったこと。
応仁の乱で焼けたこと。(京都の古刹に行くと、よく聞かされる話)
苔がむしてきたのは、江戸時代からのことで、寺の歴史を考えると、
つい最近のできごとであること。
ここは、谷あいで、直射日光のさす時間も少なく、地下水が豊富で、
京都の町中よりさらに湿潤なので、苔の生育にうってつけであること。
苔の手入れは寺の職員さんがやってること。

こちらからも聞いてみた。
「一般公開を止めた理由は?」
やはり無制限に受け入れると、目が届かなくなり、
苔の育成に悪影響が出たこと。
周りが静かな住宅街なので、ご迷惑がかかるのを申し訳なく思ったこと。
「観光の方を喜ばせても、地域の方に嫌われては意味がないです。」
素晴らしい考え方だと思う。
だから、今回も中学生未満は見学禁止なのだろう。
(いや、ちゃんと行儀守れる小学生がいることはわかってますよ。)
昨今、話題に登るようになってきた観光被害のことを、
この寺は四十年前に気づいて、目先の金ではなく、
寺にとって、一番大事なことを優先させたのだろう。
ますます、この寺が好きになった。
ますます、来て良かったと思った。

いろんな人が、この寺を愛したのは、この佇まいだけではなく、
その姿勢にもあるのかもしれない。
岩倉具視が政界を引退したのちの隠遁のちに選び(岩倉具視、個人的には
好きじゃないのだが、それは別の話ですね)、
境内には川端康成が苔寺について書いた石碑や、
高浜虚子の「禅寺の苔を啄む小鳥かな」という石碑もある。
日本だけでなく、スティーブ・ジョブズが苔寺を愛し、
お忍びで何度も来ていたのは有名な話らしい。
ワシは初めて知ったけど。

今回は、未公開部分の公開、ということで、逆に申込みで観られる
有名な庭や建物は、観られなかった。
立派なホームページがあるのに、申し込みは往復葉書のみ。
拝観料は三千円とお高めだが、それも今日聞いた話から類推すると、
ちゃんと理由のあることなのだなあ。
まあ、惚れた相手の言うことだ。聞いてやらねばなるまい。
少なくとも、ここ十年以上書いたこともないけど、
明日往復葉書を買いに行こうと思う。

その前にもっと知っておきたくて、ポチってしまった。
これを観てから、往復葉書を出そうと思う。

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