唯一無二の天才の歩む現在進行形のロードムービー。映画「ブライアン・ウィルソン/約束の旅路」。

なんか途中から、涙が出て仕方なかった。
ビーチボーイズの天才、ブライアン・ウィルソンが、
旧知の元ローリング・ストーン誌の編集者のジェイソン・ファインと
思い出の場所を訪ねながら、その頃の話をするドキュメンタリー映画、
ブライアン・ウィルソン/約束の旅路」。

インタビュー嫌いで有名なブライアン・ウィルソンが、
今も、精神疾患を抱えながら、生きてる彼が、
こんなにいろいろ自分のことを語ることが、まず驚きだった。
あまり触れたくないだろう、父親との関係なども、包み隠さず。
映画中にも、その類の発言があるが、
ブライアンが信頼を寄せるジェイソン・ファインだからこそ、
引き出せた言葉なのだろう。

ほんま、壮絶な人生や。
20代前半でスターダムの頂点に立った。
けど、彼のしたかったのは、スターになることではなく、
純粋に音楽を極めることだった。
そして、彼は、ほぼたった一人の力で、
ビートルズの「ラバーソウル」を超えようとして、
かの名作「ペット・サウンド」を作ったのだった。
そして、たぶん、超えた。
他ならぬビートルズが、そのブレインのジョージ・マーティンが、
サージェント・ペパーズを作る時、
ペット・サウンドを意識してたことが、その証拠だろう。

世間の期待に応えつつ、音楽を進化させ、あのビートルズに対抗するのは、
並並ならぬ精神力が必要だったのだろう。
ブライアンも60年代のレジェンドのお決まりのコース、
お薬、精神疾患のコースに陥る。
けど、ブライアンは、そこで終わらなかった。
他のレジェンドたちは、27歳で次々この世を去ったが、
ブライアンは、乗り越えた。

怪しい精神科医に幽閉された日々のことも映画の中で語られる。
その呪縛すら解き放ち、2004年には、37年間、制作中断してたアルバム
「スマイル」を完成させる。

ビーチボーイズのメンバーだった、ブライアン、デニス、カールの三兄弟の中で、
精神的にも一番死に近いイメージだったブライアンだけど、
二人の弟を失った今でも、精神疾患と戦いながら音楽活動を続けている。

その二人の弟のことを歌った「サザンカリフォルニア」のシーンは、
悲しく、美しく、声が出そうなくらい泣いてしまった。
この歳になってもあの頃の高音と美しさを保っているのは、驚きだ。

ブライアンの声は、今も変わらず、美しい。
だけど、あの頃の美しさとは、少し違う気もする。
何か、どこかに、悲しみを携えた美しさという気がする。

聴けば聴くほど、その声が愛おしくて、たまらなくなるのは、
きっと、そのせいだと思う。

車で移動するブライアンの表情は、どこか穏やかにも感じる。
何かを乗り越えた穏やかさなのだろうか。
自分で封印してた(ように思える)弟の音楽にも耳を傾ける。
「もっと聴きたい」と言い出す。
そうか、この映画はロードムービーなのだな。
だから車移動のシーンが多いのだな。
ブライアン・ウィルソンという、他に例がないくらい、
稀有な人生を歩む男のロードムービー。
そして、その旅は、まだ続いている。

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