映画「わたしたちの夏」。

10年近く前に観逃して、すっと観たかった映画をやっと観られた。
詩人でもある、福間健二さんの「わたしたちの夏」。

面白かった。風変わりな映画だけど、惹きつけられた。
別に変わった風景が出てくるわけではない。
ごく日常にある風景なのに、それがものすごく詩的に思える。
なんでもない掃除風景なのに、事件が起こるんじゃないか、
と思わせる隠喩めいた印象を抱いたりする。

短く切り取ったワンシーンワンシーンが、
それぞれ、一片の詩のようであり、
映画全体が、短い俳句のようでもある。
福間さんという詩人でもある監督ならではの表現方法なのかなあ。

映像が、ストーリーが、音楽が、同じ世界を形づくっている。
それは、全部が同じベクトルを向いているようでもあり、
同じものを、違った角度から表しているようでもある。

ときに、完全なドキュメンタリーの会話や撮り方さえ混じるが、
頭で考えると、ノイズになりそうな、そんなシーンが、
通してみると、映画の世界を壊すどころか、深めていることに気づく。

こんな映画は観たことがない。

ワシが、この映画の存在を知ったのは、鈴木常吉さんが出演されてたからだ。
だから、どうしても観たかったのだが、2011年の公開当時は、
ウカウカしてて、観逃してしまったのだ。
鈴木さんは、映画にいくつか出ていて、ワシは大部分観させて頂いてるが、
その中では、この映画の鈴木さんが、一番良かったと感じた。
演技なのか、素なのかわからない、セリフや佇まいが、
すごく自然なままの鈴木常吉さんでありつつ、
映画の世界を、大きく増幅させている気がした。

鈴木さんと吉野晶さんで歌う「シエリト・リンド」のシーンは、
意味もなく、心が浮き立って、なぜか涙の出そうになるシーンでもあった。

鈴木さんの曲は、アルバム「望郷」に入ってる曲が二曲使われてる。
前半で「アヒル」、エンディングで「ウイスキーブルース」。
どれも、イントロのギターの一音目で「あ!鈴木さん!」とわかったのは、
鈴木さんの音に特徴があるからなのか、
ワシが、聴き込みすぎてるからなのか。
たぶん、両方だろう。

この映画のテーマは、ひとことでは言えないが、
死者が、生者を動かす、死が、生の輪郭をくっきりとさせる、
みたいなものがあるような気がする。

最近、立て続けに、ご不幸があったり、親父の命日が7月だったり、
何かと、死を意識することが多い、日々だったので、
このタイミングで、この映画を観られたのは助けられた気がした。
10年近く、待ち望んでたのは、このタイミングで観るためだったのかもしれない。

映画が終わって外に出ると、映画の影響なのか、
町が妙に詩的に見えて、写真を撮りまくってしまった。
今見ると、何の変哲もない平日午後の商店街やなあ。

ひとつ、スナックのチイママみたいな金髪の姉ちゃんと看護師さんが、
すれ違った場面を撮り逃したのは、残念だった。

「わたしたちの夏」、大阪では明日までです。
報告遅くてすみません。

昨年の本日、鈴木常吉さん出演の、死をテーマにした映画観ました。
このとき、鈴木さんは、もうお亡くなりになってたのですが、
ワシは、そのことを知りませんでした。
その上で、この文章を書いたことに勝手に運命的なもの感じております。
(20210716記)

今年4月26日、監督の福間健二さんが74歳で、亡くなられました。
福間健二さん4月26日に死去 3月に脳梗塞で倒れるも「回復し転院というところで」妻の恵子さんが報告
素晴らしい映画をありがとうございました。
謹んでお悔やみ申し上げます。
(20230716記)

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