希望に溢れた冤罪映画「オレの記念日」。

「冤罪」という、この上なく理不尽な出来事を扱った映画なのに、
気がつけば、笑いながら観てしまう。
映画「オレの記念日」は、そんな映画だった。

桜井昌司さんは、布川事件の殺人犯として29年間を獄中で過ごし、
仮出獄ののち、再審で無罪を勝ち取った方である。

いつも、微笑みながら「刑務所にいたから変われた。幸せになれた。」と言い切る。
だけど、奥さんの話や、時折見せる涙が、
その言葉の裏に潜む苦しみをほじくり出す。

強い人だと思った。意志の強さ。
殺人などしてないのに、その罪状で29年もの長い間の投獄、
もちろん怒りもあっただろうけど、
それだけを抱えて生きていくと、
毎日はくすんでいくだけなのかもしれない。

だから桜井さんは、言葉を紡ぎ、自分に投げかけることで、
人生に起こったことをすべて肯定し、
これからを生きていくための糧とし、
幸せに向かうための道筋を探して歩いていく。
投獄された日も含め、身の回りに何か起こった日を
「記念日」と名づけて、人生の一里塚のように大切にしていく。
その結果、たどり着いた「不運ではあっても、不幸ではない」
という言葉の強いこと、強いこと。

かけがえのないパートナーを得たことも、
再審で無罪を勝ち取ったことも、
もちろん、前向きに生きていくために必要なことだったろうが、
それも、桜井さんの、この姿勢なしでは、
得られないものだったんじゃないかと思う。

自分に置き換えて考えると、とてもこんな顔で笑ってなんてられない気がする。
その桜井さんの笑顔はいい。
知らず知らず、ワシも笑顔になりながら映画を観ていた。
途轍もない苦しみや悲しみを背負った上で、
見せる嘘のない笑顔、
そんな桜井さんを好きになれないはずがない。

こんな希望を感じる冤罪映画は、初めて観た。

ストーリーと直接関係ないけど、最初に出てくる千葉刑務所、
以前行った旧奈良監獄と似てるなあ、と思って調べたら、
やはり同じ建築家、山下啓次郎さんの設計だった。
山下啓次郎さんはジャズピアニスト、山下洋輔さんのおじいさんである。
刑務所をたくさん設計した人だけど、
啓次郎さん設計の刑務所で、今も現役なのは、
どうやら、この千葉刑務所だけのようだ。

あと、終わりの方に、通天閣の見える部屋で、
桜井さんが歌ってるのだが、
あれって、たぶんピースクラブやろうな。

この映画を観てから1年も経たない、
今年、8月23日、桜井さんは旅立たれました。
やり残した思いはあるでしょうが、
「不幸ではない」幸せな一生だったと思います。
思いたいです。
ご冥福をお祈りします。
(20231025記)

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