映画「空と風と星の詩人〜尹東柱の生涯〜」。

空と風と星の詩人〜尹東柱の生涯〜」という映画DVDを観た。
名前くらいしか知らなかった尹東柱という
韓国の国民的詩人と言われる人物の伝記映画である。

尹東柱は戦時中の日本で学生生活を送り、
治安維持法違反で逮捕され、
1945年2月、27歳で獄中死する。死因は不明とされる。

半島と日本の狭間で、過酷な青春を
おくらなければならなかった、その人生を綴った映画は、
「DVDで良かった」と思うくらい辛かった。
途中、何度か一時停止を押して、深呼吸をした。

しかしその詩は、傷つきやすい繊細な青年の心そのもので、
清らかで、愛おしいほどに、美しかった。
半島の人が読めば、ここに民族の苦しみや嘆きを
読み取るのかもしれないが、
彼の詩は、それをも超えて、
青年としての普遍に辿り着いている気がした。

もちろん、占領下という時代における彼の状況が、
これらの詩を書かせたことは間違い無い。
だから、半島の人が、民族詩人、抵抗詩人として、
彼の詩を愛することも、当然のことだろう。
だけど、ワシにとっては、彼の詩は、
自分の20代前半の頃をも、思い出させる
大いに共感を抱く詩であった。

それとは別に映画で彼の人生を知ると、
「西洋列強からのアジアの解放」という
大日本帝国の掲げる理想が、大いなる欺瞞であったことも、
再認識させられた。
多くは語らないが、どんな社会であっても、
自国語を否定する、自国語での教育まで禁じる社会が、
正しいわけがないと思う。
それは、方言を否定する戦前の沖縄も、
現在のウイグル人弾圧も、然り、だと強く思った。

ちなみに彼の詩が、刊行されて広く知れ渡り、
愛されるようになるのは、彼の死後だ。

そして、彼が逮捕されたとき部屋にあったであろう文章や
獄中で残した文章などは、行方知れずになっているそうである。
いつか、その文章や、もしかしたらあるかもしれない
未発表の詩が、発見され、世の人に知られる日が来ることを
願って止まない。

「自画像」尹東柱

山の辺を巡り田園のそば 人里離れた井戸を
独り尋ねては そっと覗いて見ます。

井戸の中は 月が明るく 雲が流れ 空が広がり
青い風が吹いて 秋があります。

そして一人の男がいます。
なぜかその男が憎くなり 帰って行きます。

帰りながら ふと その男が哀れになります。
引き返して覗くと男はそのままいます。

またその男が憎くなり 帰って行きます。
帰りながら ふと その男がなつかしくなります。

井戸の中には 月が明るく 雲が流れ 空が広がり
青い風が吹いて 秋があり
追憶のように男がいます。

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