映画「ジュゼップ 戦場の画家」。
本日から始まったアニメーション映画「ジュゼップ戦場の画家」を
「お盆で混む前に」と思い、普段は避ける初日に行ってきた。
ジュゼップ・バルトリは実在の画家。
第二次世界大戦の引き金とも言われるスペイン内戦から逃れ、
フランス領内で入れられた強制収容所が物語の主な舞台だ。
スペイン内戦のことは、ピカソのゲルニカやヘミングウェイの「誰がために鐘は鳴る」で
少し聞き及んだことがあるくらいで、詳しくは知らなかった。
当時、フランスに大勢やってきたこの戦争難民を、
フランスは強制収容所に押し込め、
看守たちは、難民たちにひどい仕打ちをしてきたらしい。
最近「アウシュビッツレポート」「トゥルーノース」「オキナワサントス」
テレビドキュメンタリーの「映像の世紀」と、
時代やシチュエーションは違えど、強制収容に関する映像をよく観ている。
不思議なのは、戦争状態であろうと、難民の収容であろうと、同民族の思想犯であろうと
どの場合も看守が凶悪化して、虐待を始めることだ。
そして、どの多くの映像にも、看守や支配側の人間が、
家畜に餌をやるように、食糧を投げ捨て、
飢えて、泥のついた食糧であろうと、それを取り合いする人を見て、
嘲るように笑うシーンが出てくる。
これは悲しいけど、人間の本性の部分であるんだろうか。
だとしても、意志の力で、乗り越えるべき性質なのではないだろうか。
この映画では、その食糧を難民同士が分け合うシーンがあって、
「また奪い合いか、、」と嫌な気持ちになりそうなのを救ってくれたのであるが。
そして、この映画を観ながら、一番思い出したのは、
他の強制収容所の話ではなく、
やはり先日観た「東京クルド」のことだった。
つい昨日も、スリランカ人女性が名古屋入管で、
医療をきちんと受けられず亡くなった話をニュースでやっていた。
自分に身近な話だから思い出したのかもしれないが、
戦争で命からがら他国に渡った難民を、
一箇所に押し込めて、ひどい扱いをする、ということを、
虐待を受ける立場から考えると、入管も強制収容所と同じなのではないか、と思ってしまい、
そのことをずっと頭に置きながら映画を観ていた。
さて、話を「ジュゼップ」に戻します。
その画家、ジュゼップ・バルトリがフランスの強制収容所で、虐待を受け、
大事な人を失いながら、
看守の一人と友情を育む、というのが、ザクッとした話の流れである。
詳しいストーリーは、公式ホームページでどうぞ。
あ、いや、めっちゃいい映画なので、映画館でどうぞ。
この映画の監督さんは、実際今も、
フランスの新聞「ル・モンド」でイラストを描いているオーレルという画家で、
その方が、先人たる画家の絵と人生に心を打たれ、
限りない敬意を込めて創っているので、
ただのアニメーション映画とは、明らかに一線を画している。
収容所時代のアニメはモノクロ中心で、コマ数も動きも少なくした
初期のセルアニメの雰囲気を出したり、
現代の設定でも、シーンによって色目を使い分けたり、
実に細やかな配慮がなされている。
実在の画家の絵がテーマなのだが、その実際の絵と、
その絵を巡る物語のアニメーションの描き分けも巧みなので、
観てて混乱することはなかった。
収容所のシーンは、いきなり動きの少ないアニメーションになったので、
最初少し戸惑ったが、すぐに慣れた。
この描き分けがあるから、スーパーでいちいち時代を入れなくても、
「収容所時代の話だな」とか「ここは、現代の話」と感覚的に理解できた。
上手い手法を考えたもんだ。
好きだったシーンを上げると、
1つ目はやはり全体を通じて語られる
画家と看守が心を通じあわせて、一生の友になっていく過程。
友情モノがわりと好きなものあって、ホッコリさせていただいた。
あと好きな画家、フリーダ・カーロが、登場するのも嬉しかった。
このジュゼップ・バルトリ、実際フリーダ・カーロと一時、恋愛関係にあったらしい。
フリーダ・カーロ、イサム・ノグチとも一時、恋愛関係にあったんよなあ、確か。
旦那さんの悪魔のような女癖に悩んだ人生だったはずだが、
そのあてつけなのか、本人もいろいろ浮名流してたんやな。
そして一番好きなのは、この物語が昔話に終わるのではないところ。
物語は、老齢になった看守が、病床で絵に興味のある孫に語る、
という形で、進むのだが、
最後のシーンで、その孫がジュゼップ・バルトリの遺志を継ぐ、
みたいなことを象徴するシーンがあるのだ。
ジュゼップ・バルトリの劇的な人生が、彼だけに終わるのではなく、
彼の絵や、人生に感銘を受けた人によって、
新たな芸術に繋がっていく。
希望を感じる素晴らしいストーリーだと思う。
そして、これは、ジュゼップ・バルトリの遺志を継いで、
自分の芸術を高めていこうという監督オーレルさんの決意でもあるんだろう。
もう一度、観てみたい映画に、また出会えた。
パンフレットを買ってみたが、
映画のシーンの上質なアニメーションはもちろん、
ジュゼップ・バルトリの絵もたくさん入ってて、
これで900円はお得やな、思った。
「ジュゼップ戦場の画家」は8月から10月にかけて、全国各地で上映予定。
大阪ではテアトル梅田一館で上映。
終演日は決まってないようですが、お早めに!
文章中に出てきた映画についてのワシの感想、貼っておきますね。