タイトルは秀逸、だが。映画「スープとイデオロギー」。
※ネタバレあります。ご注意ください。
監督の母親の激動の、だけど在日朝鮮人には、
他にも同じような境遇の人がいたかもしてない人生を描いたドキュメンタリー映画
「スープとイデオロギー」を観てきた。
その母親は、在日二世として、大阪の生野に生まれる。
戦後、その出自である、韓国済州島に戻るが、
そこで、出くわすのが、軍事政権による悲惨な住民弾圧、四・三事件。
命からがら生野に戻ってくる。
そのため、韓国の軍事政権に対しての憎悪を抱き、
3人の息子を、当時「地上の楽園」と謳われた北朝鮮に送り、
以来、ずっと送金し続けている。今では年金を削ってまで。
日本、韓国、北朝鮮、国家に翻弄され、
その一番過酷なところだけを集めたような人生に思えた。
それを描くのが「かぞくのくに」のヤン・ヨンヒ監督。
四・三事件にも興味があったし、タイトルも秀逸だったし、
ヤン・ヨンヒさんが監督ということで、前々から「行く」と決めていた映画だった。
意外だったのは、これだけ苛烈な人生を過ごしてきたのに、
このお母さん(オモニ)が、いつも明るく、ニコニコしてたことだった。
でも、ときどき消しても消せない傷が覗く。
普段明るいだけに、その痛みがズシンと伝わる。
そして、映画の途中で、オモニは認知症を発症し、いろんなことを忘れてゆく。
そのオモニから、監督が引き継ごうと思ったのが、
自慢の鶏とニンニクのスープと、この人生を過ごしたからこ至った、その考え方であった。
それがタイトルに繋がっている。
そのことは、すごく実感できたのだが、
映画が始まって、間もないあたりから、監督の結婚話が始まる。
そしてその話が結構長い。
ワシの主な興味は、四・三事件とそれを生き抜いたオモニの人生にあったので、
「まだまだ、登場人物に思い入れできるほど、知らないうちに、
そんなノロケ話みたいなことされても、あんあまり喜べないし、
知りたいのは、そういうことじゃないのになあ」と、正直思ってしまった。
あと「イデオロギー」という言葉にも多少の違和感が残った。
オモニの抱いてるものは、イデオロギーみたいな頭先行のものじゃなく、
過酷な人生を生きてきて、結果心に宿る、
自分ではどうしようもない衝動みたいなもんじゃないのかなあ、と思った。
もしかしたら、ワシのイデオロギーという言葉の解釈が間違ってるのかもしれない。
それとも、このイデオロギーという言葉は、
四・三事件における韓国軍事政権のイデオロギー、
北朝鮮における結果的に3人の兄を巻き込んだイデオロギーのことなのか。
その辺り、はっきりと分からず、少しすっきりとしなかった。
初めてタイトル聞いた時「組み合わせが秀逸だなあ」と思っただけに、
ストンと落ちる納得感がなかったことに、モヤモヤしてるのかもしれない。
けど、ワシが日頃から抱いている、個人と国家の関係の矛盾を、
これほど体現してる人生も、なかなか出会えるものではないので、
この映画を観て、良かったな、ということは、
心から感じている。
この時は、ちょっと苦言っぽいこと言いましたが、
あれからヤン・ヨンヒさんのこと、もう少し知って、
あの部分が必要やった意味、ちょっとわかった気がします。
6月23日まで、十三の第七藝術劇場で、ヤン・ヨンヒ監督作品の
デジタル・リマスターバージョン、リバイバル公開してるので、
もう一度、観てこようと思います。
(20230616記)