人間こそ、神の生みの親なのかもしれない。BBBムービー『北村皆雄監督傑作選「聖なる俗 俗なる聖」』。
北村皆雄さんの監督作品は、今までに二つ観たが、
どちらも資料的価値もあるような優れたドキュメンタリー映画だった。
フィルモグラフィーを見ると、この二つが、最近作のようで、
今年公開の「倭文(しづり) 旅するカジの木」に併せて、
過去作品が公開されてたので、観に行ってきた。

初期作品三部作は「白い影への対話」、「カベールの馬〜1966年イザイホー〜」、
「津軽じょんがら女考―青森―」。
デビュー作の「白い影への対話」は、意外にもドキュメンタリーではなく、
映像詩のようなスタイリッシュな作品だった。
セリフはないのだが、一人の男が、町を歩き回る、
どこか虚無的な香りのする作品で、
あの頃の時代の空気というのが、
鮮やかに切り取られてる気がした。
「カベールの馬〜1966年イザイホー〜」は、
沖縄の神の島、久高島に伝わる12年に一度の儀式「イザイホー」の、
1966年に行われた儀式を捉えた作品。
イザイホーは1978年以来、ノロの不在で行われておらず、
もはや、失われたかもしれない儀式なので、
この映画の資料的価値は、すごく高いのだと思う。
確か、岡本太郎さんも、野村岳也さんも、
この1966年のイザイホーを取材して記録したはずなので、
この年のイザイホーは、幾つもの取材班を受け入れてたのかな。
しかし、この北村さんバージョンは、単なる記録にとどまらず、
神話的な言葉やフィクションを交えた、映像作品としても、
クオリティの高いものに仕上がっていた。
「津軽じょんがら女考―青森―」も、津軽のオシラ様伝説をベースに、
津軽三味線奏者の西川洋子さんが、信仰の場を歩いて回る、
詩的なドキュメンタリーに仕上がっていた。
北村さんの作品は、どれもドキュメンタリーにとどまらず、
映像作品にまで昇華させているのが、素晴らしいと思う。
もう一本観たのは、西表島の古見を舞台にした、
「アカマタの歌 海南小記序説/西表島・古見」。
古見は西表島の旧名「古見島」に由来する、
西表でも長い歴史を誇る地域で、
水稲栽培ができるので、住民も多く、
15世紀には、西表だけでなく、八重山の中心地として栄えていたらしい。
水牛で渡るので有名な由布島も、この古見の一部らしい。
けど、1771年の明和の大津波で壊滅的な被害を受け、
明治から昭和にかけて、黒島などからの移住者で、
再建が図られた島だったらしい。
この映画自体は、1973年の作品で、その少し前、
沖縄返還前後の古見を舞台にしているようだが、
その当時も、昔からの住民は少なく、
宮古や、本島、内地などからの移住者で
構成された町だったようだ。
当時も過疎化が進んで、どんどん住民が減っていくのに、
住民は、創価学会や、自民党、など入り乱れて、
分断が進んでいってる状況が、
住民たちへのインタビューで暴かれていく。
そこに、被差別的な扱いを受けていた、
炭鉱労働者の話も絡んできて、
分断はより複雑な状況を呈する。
西表に炭鉱があって、ほとんど騙されたみたいに
連れてこられた話は、昔、増山実さんの小説、
「波の上のキネマ」でも読んでいたので、
重なるところもあって、惹き込まれた。
しかも、この映画では、それに加えて、
撮影することの許されない「アカマタ」というお祭りの話も絡んでくる。
このお祭りは、古見から出ていった人々の、
心の支えにもなってるようだった。
けど、創価学会の人たちは、基本的には、この祭りを受け入れられないよな。
その当時、17軒になってしまった小さな村だけど、
小さな村だけに、より複雑に絡まる濃密な人間関係が、
フィルムにもまとわりつく、むせかえるような暑さと一緒に、
ムワッと迫ってくる映画だった。
八重山には、この「アカマタ」以上に、
その存在や、祭りの名前すら、よその人間には言ってはいけない、
隠された祭りが、いくつか残っているそうだ。
多くは、仮面仮装の来訪神を迎える祭りのようだけど、
実態は、まだまだ分からないことの方が多い。
分からないままで、いいと思いつつ、
知りたい気持ちが、ずっと抑えられないでいたので、
少しでも、それを感じることのできる映画を観られて嬉しかった。
どの映画もドキュメンタリーをベースにはしてるけど、
ただの記録ではなく、作品性の強い、
なんとなく浮遊感すら感じる作品ばかりであった。
映画を観てて、ふと思ったのは、
神というのは、人間がいなければ存在しないものなのかもしれない、
人間こそ、神の生みの親なのかもしれない、
という逆転したような、発想だった。
結局、この時期にやってた北村さんの全部の映画は観られなかったけど、
観逃した「見世物小屋〜旅の芸人・人間ポンプ一座〜」、
「ほかいびと〜伊那の井月〜」、「冥界婚」も、
すごく面白そうなので、
機会があれば、観てみたい。